Richard Senett(2008) Craftsman の日本語訳。高橋勇夫訳。帯には「《ホモ・ファーベル(作る人)》の社会学とある。ローマ時代の職人から現代のプログラマー、職業としてのものづくりから日曜大工にいたるまで、「作る人」をめぐる壮大な社会史である。技術史、メディア史、あるいは「人ともの(づくり)の歴史」としても読むことができる。序盤、「モノを作る人間はたいてい自分たちが何をしているのか理解していない」という、ハンナ・アレントの痛烈な批判が紹介されるところから始まったのは意外だった。この本を読むまで知らなかったのだが、アレントがセネットの師だった。500ページにも及ぶ大著の導入として、彼の研究に大きな影響を与え、研究の(おそらく)出発点となった師の視座を明確にしておくことが不可欠だったのだろう。作る人の責任に関しては、最近では例えば、ファブ社会の製造物責任や、高齢者が事故を起こしにくい自動車開発などのテーマが思い浮かぶ。ものづくりと責任は切り離せない。
さて、本書で使われる「クラフツマンシップ」とは、「モノを巧みに作る技術(スキル)」で、例えば「我慢強く基本に忠実な人間的衝動のことであり、仕事をそれ自体のために立派にやり遂げたいという願望(p.32)」のことを意味する。
個人的には、第9章「品質にこだわる作業」の中で、ヴィトゲンシュタインが登場した個所がおもしろかった。彼がウィーンに住む彼の姉のために設計した家と、彼の完璧主義が作品(家)にどのように影響したかを例として、よきクラフツマンであるためには、完璧主義とどのように向き合うべきかについて書かれている。完璧主義が時として作品の完成に悪影響をおよぼすこともある。ほどほどがいいみたい。
これまで、どちらかといえば都市社会学や経済学の文脈で書かれていた著作が多かったが、この本を皮切りとして、「物質文化に関する三部作」をテーマとした本があと2冊(テーマはそれぞれ『戦士と僧』、『よそ者』)出版されるそう。今後が楽しみ。